情報が伝わる!デザインの『フォント』基礎知識と活用法【非デザイナー向け】
伝わるデザインの第一歩は「フォント選び」から
プレゼン資料、社内向けのお知らせ、SNS投稿、あるいはちょっとした広告バナー。日々の業務で「文字」を配置する機会は多いのではないでしょうか。 しかし、なんとなく選んだフォントで資料全体の印象がぼやけてしまったり、一生懸命書いたSNSの文章が読みにくくなってしまったり、といった経験はありませんか?
デザインというと、色や写真、レイアウトといった派手な要素に目が行きがちですが、実は「フォント」は情報を伝える上で最も基本的で、そして最も影響力のある要素の一つです。フォントを変えるだけで、同じ文章でも受け取る印象はガラリと変わります。
この記事では、デザインの専門知識がない方でもすぐに理解できるよう、フォントの基本的な知識から、目的に合わせた選び方、そして具体的な活用方法までをやさしく解説します。この記事を読み終える頃には、「なんとなく」から「意図をもって」フォントを選べるようになり、あなたの作成物がよりプロフェッショナルで、かつ情報が正確に伝わるものになるはずです。
フォントってそもそも何?基礎知識から始めましょう
「フォント」や「書体」といった言葉はよく聞くけれど、正確には分からない、という方もいらっしゃるかもしれません。ここでは、まずデザイン原則としての「フォント」を理解するための、最低限の基礎知識をご紹介します。
「書体(しょたい)」と「フォント」の違い
厳密には「書体」は文字のデザインファミリー全体を指し、「フォント」はその書体の特定のサイズやスタイル(太字、斜体など)のセットを指すことがありますが、現代ではPCなどで使うファイルとしての文字セット全体をまとめて「フォント」と呼ぶのが一般的です。この記事でも、より一般的な「フォント」という言葉を使います。
フォントの大きな分類:セリフ体とサンセリフ体
欧文フォント(アルファベット)には、大きく分けて2種類あります。
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セリフ体(Serif):
- 文字の線の端に「ひげ」や「飾り」のようなもの(これを「セリフ」と呼びます)がついているフォントです。
- 例:Times New Roman, Georgia
- 印象: クラシック、伝統的、信頼感、上品、権威など。
- 使われる場所: 新聞、書籍の本文、論文、伝統的なブランドのロゴなど。長文を組む際に、セリフが文字の流れをスムーズにし、読みやすくすると言われています。
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サンセリフ体(Sans Serif):
- 文字の線の端に「ひげ」(セリフ)がないフォントです。「Sans」はフランス語で「〜なし」という意味です。
- 例:Arial, Helvetica, Noto Sans
- 印象: 近代的、シンプル、クリーン、親しみやすい、視覚的に強いなど。
- 使われる場所: Webサイトの本文、見出し、広告、標識、プレゼン資料など。画面上での表示に適しており、ぱっと見て内容を把握しやすい傾向があります。
日本語フォント:明朝体とゴシック体
日本語フォント(漢字、ひらがな、カタカナ)にも、欧文フォントのセリフ体・サンセリフ体に対応するような大きな分類があります。
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明朝体(みんちょうたい):
- 縦線が太く、横線が細い、線の端に「うろこ」と呼ばれる三角形の飾りや、「はね」「はらい」があるフォントです。
- 例:游明朝, ヒラギノ明朝
- 印象: 繊細、知的、伝統的、信頼感、上品など。
- 使われる場所: 書籍や雑誌の本文、新聞、レポート、手紙、Webサイトのタイトルなど。長文の本文に適しています。
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ゴシック体(ゴシックたい):
- 縦線と横線の太さが均一で、「うろこ」や「はね」「はらい」が少ない、あるいは全くないフォントです。
- 例:游ゴシック, ヒラギノ角ゴ, Noto Sans JP
- 印象: 力強い、視覚的に目立つ、現代的、親しみやすいなど。
- 使われる場所: 見出し、Webサイトの本文、プレゼン資料、広告、ポスターなど。ぱっと目を引く必要のある場所や、画面上で小さく表示される場合でも視認性が高いです。
装飾書体(デザインフォント)について
セリフ体やサンセリフ体、明朝体、ゴシック体といった一般的な分類には入らない、個性的でデザイン性の高いフォントもあります。これらは「装飾書体」や「デザインフォント」などと呼ばれます。 例:筆記体のようなフォント、手書き風フォント、非常に太いフォント、レトロなフォントなど。 使い方: 特定のキーワードを強調したり、ブランドの個性を表現したりするのに効果的です。ただし、本文など多くの情報を伝える場所で使うと読みにくくなることが多いため、使いどころを見極める必要があります。
非デザイナーのためのフォント選び:失敗しないためのコツ
フォントの分類が分かったところで、では実際にどのようにフォントを選べば良いのでしょうか?非デザイナーの方がフォントを選ぶ際に意識したい、いくつかの簡単なコツをご紹介します。
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目的に合わせて選ぶ:
- あなたが作っているものは何ですか? 読みやすい長文がメインの資料ですか? 短いメッセージでインパクトを与えたいSNS投稿ですか? それによって選ぶべきフォントの種類は変わります。
- 長文(レポート、資料本文など): 明朝体(日本語)やセリフ体(欧文)は長文での読みやすさに優れます。
- 見出しや短文(SNS投稿、バナー、スライドタイトルなど): ゴシック体(日本語)やサンセリフ体(欧文)は視認性が高く、短いメッセージを強調するのに適しています。
- 特定の印象を与えたい場合: 例えば、信頼感を強調したいなら明朝体やセリフ体、親しみやすさを出したいなら丸ゴシック体や手書き風フォントなど、フォントが持つ「印象」を参考に選びましょう。
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読みやすさを最優先にする:
- 最も重要なのは、情報がきちんと読者に伝わるか、つまり「読みやすいかどうか」です。どんなにおしゃれなフォントでも、小さく表示されたときに潰れてしまったり、文字の形が独特すぎて読むのに時間がかかったりするものは、目的を達成できません。
- 特に本文など、情報量が多い部分では、一般的で癖のないフォントを選ぶのが無難です。
- ディスプレイ上で表示されるWebサイトやプレゼン資料では、画面表示に最適化されたゴシック体やサンセリフ体が読みやすい場合が多いです。
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使うフォントの種類は絞る:
- 一つのデザインの中に様々なフォントを使いすぎると、ごちゃごちゃして見え、統一感がなくなってしまいます。
- 基本的には、多くても2〜3種類のフォントに絞るのがおすすめです。例えば、「見出し用のフォント」と「本文用のフォント」の2種類で構成すると、まとまりが出てプロっぽく見えます。
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相性の良いフォントの組み合わせを見つける:
- 複数のフォントを使う場合、それぞれのフォントが持つ印象やデザインが調和しているかを確認しましょう。
- よくある組み合わせのテクニックとしては、「明朝体とゴシック体」「セリフ体とサンセリフ体」のように、対照的な印象を持つフォントを組み合わせることで、情報の強弱をつけ、デザインにリズムを生み出す方法があります。
- 同じ書体のファミリー内にある、太さ(ウェイト:Light, Regular, Boldなど)やスタイル(Italicなど)の異なるフォントを使い分けるのも効果的です。例えば、「游ゴシック Light」を本文に、「游ゴシック Bold」を見出しに使うなどです。これなら、統一感を保ちつつ、情報を整理できます。
具体例で学ぶ!フォントの活用術
では、実際の業務シーンでどのようにフォントを選び、活用すれば良いのか、具体的な例を見てみましょう。
例1:SNS投稿用の画像作成
- 目的: 短いメッセージで目を引き、伝えたい情報を印象的に見せる。
- 課題: 限られたスペースで、たくさんの情報の中から目に留まるようにしたい。
- フォント選びと活用:
- メインの見出し: 最も伝えたいメッセージには、太めのゴシック体や、投稿内容の雰囲気に合った装飾書体など、視認性が高くインパクトのあるフォントを選びます。例えば、キャンペーン告知なら力強いフォント、癒やし系の情報なら手書き風や丸ゴシック体など。
- 補足情報・本文: 見出しよりも一段階細いゴシック体や、読みやすいサンセリフ体を選びます。コントラストをつけることで、見出しが際立ちます。
- なぜ良いのか?: 太く個性的な見出しで最初に読者の目を引き、読みやすい本文で詳細を伝えるという情報設計ができます。複数のフォントを使うことで、情報の重要度に差をつけ、パッと見て理解しやすいデザインになります。
- (イメージ例):新商品の写真に「新発売!期間限定セール中!」という見出しを極太ゴシック体で入れ、その下に商品名と簡単な説明を読みやすい普通の太さのゴシック体で入れる。
例2:プレゼン資料作成
- 目的: 限られた時間の中で、聴衆に内容を分かりやすく伝え、理解・記憶してもらう。
- 課題: 文字情報が多くなりがち。画面越しでも読みやすくしたい。
- フォント選びと活用:
- タイトルスライド: プレゼンのテーマや雰囲気に合わせて、ややデザイン性のあるフォントや、太めのゴシック体などを選ぶことができます。ただし、あくまでビジネスシーンであれば、派手すぎないものを選びましょう。
- 見出し・本文: スライド全体を通して、同じフォントファミリーで統一感を持たせます。一般的には、画面表示に強く、ぱっと見て内容が把握しやすいゴシック体やサンセリフ体がおすすめです。見出しには太字(Bold)やサイズを大きくしたものを、本文には通常の太さ(Regular)のものを使います。
- 強調したい部分: 本文中の特に重要なキーワードには、同じフォントファミリーの太字(Bold)や色を変えるなどで強調します。
- なぜ良いのか?: スライド全体で同じフォントを使うことで、見た目に統一感が生まれます。また、見出しと本文で太さやサイズを変える「階層」をつけることで、どの情報が重要なのかが一目で分かり、聴衆の理解を助けます。画面越しでも読みやすいフォントを選ぶことは、情報伝達の基本です。
- (イメージ例):「年間売上報告」というタイトルを游ゴシック Boldで大きく表示し、各グラフの下のキャプションや説明文は游ゴシック Regularで統一する。
例3:社内向けのお知らせ・レポート作成
- 目的: 正確な情報を、多くの人に漏れなく、ストレスなく読んでもらう。
- 課題: 情報量が多く、読み流されやすい。硬すぎる印象を与えたくない。
- フォント選びと活用:
- 本文: 長文になることが多い場合は、明朝体(日本語)やセリフ体(欧文)は長時間の読書に向いています。ただし、これもPCやタブレットでの閲覧が多い場合は、画面表示に強いゴシック体やサンセリフ体の方が読みやすいと感じる人もいます。ターゲット層や閲覧環境を考慮して選びましょう。
- 見出し: 本文とは異なるフォント(例:本文が明朝体なら見出しはゴシック体)にするか、本文と同じフォントファミリーの太字にするなどして、見出しと本文の区別を明確にします。
- なぜ良いのか?: 読みやすいフォントを適切に使い分けることで、情報量が多くても読者が疲れることなく、内容をスムーズに理解できます。見出しで情報の区切りを示すことで、必要な情報を見つけやすくする効果もあります。正確な情報伝達において、読みやすさは最優先されるべきです。
- (イメージ例):レポートの本文はMS明朝、章ごとの見出しはMSゴシック Boldにする。重要な項目名だけ色を変える。
デザイナーとの連携に役立つ「フォントの話」
あなたがデザイナーにデザインを依頼したり、フィードバックを伝えたりする際、フォントについて基本的な理解があると、コミュニケーションがよりスムーズになります。
例えば、「ここの文字、もうちょっと親しみやすい感じにできませんか?」「見出しはもっと力強い印象にしたいです」といった、抽象的な要望に加えて、「本文は明朝体ではなくゴシック体にしたいです」「見出しは太字でお願いします」のように、フォントの種類やスタイルを具体的に伝えることで、デザイナーはあなたの意図をより正確に把握できます。
また、デザイナーから提案されたフォントについて、「なぜこのフォントを選んだのですか?」と理由を尋ねてみましょう。デザイナーは、きっとそのフォントが持つ特徴や、デザイン全体のコンセプトとの関係性を説明してくれるはずです。そうした会話を通じて、あなたのデザインに関する知識も深まります。
まとめ:フォントへの意識がデザインを変える
フォントは、ただ文字を表示するためのツールではありません。それは、情報の「声」であり、デザインの「表情」です。
この記事でご紹介したように、フォントにはそれぞれ異なる特徴と印象があります。それらを理解し、目的に合わせて選ぶことで、あなたの作るデザインは、単なる文字の羅列から、「意図をもって情報を伝える」ための強力なツールへと変わります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、まずは普段よく使うフォントの種類(明朝体・ゴシック体など)を意識したり、手持ちのPCに入っているフォントを眺めてみたりすることから始めてみてください。少し意識を変えるだけで、あなたの資料やSNS投稿、プレゼン資料は見違えるように分かりやすく、そしてプロフェッショナルな印象になるはずです。
デザイン原則としてのフォントの力を理解し、ぜひ日々の業務に活かしてみてください。